航空宇宙産業における今後の傾向
ここ数十年間、航空宇宙産業は成長を続けてきました。この数年の間危機はありましたが、COVID-19のような深刻で大きな危機はありませんでした。現在、マーケットは私たちが最後に2006年に経験した成長レベルに戻ってしまいました。航空機メーカーはどのようにして元の道に戻れるでしょうか?答えはより持続可能な製造にあります。この記事では、サンドビック・コロマントの切削工具スペシャリストで、航空宇宙産業向け産業ソリューションマネージャーのセバスチアン・イェーガーが、航空宇宙産業が回復するにはコラボレーションがいかに不可欠な部分であるかを説明しています。
航空宇宙産業はパンデミックに見舞われるまでの14年間、着実に成長してきました。そのような航空宇宙産業の動向と将来が、先例がない新型コロナウィルスのパンデミックによって甚大な影響を受ける、などといった疑いを持つ人はいませんでした。出張旅行や休暇旅行が急激に縮小しました。航空会社は大幅に低いレベルの収益性への調整を余儀なくされた一方で、
すべてが悪いニュースばかりではありません。航空宇宙産業セクターでは、2021の前半にいくつかの改善が見られました。しかし、成功はワクチン接種やグローバルな経済見通しのようないくつかの要因に縛られています。中国の経済繁栄、景気および休暇旅行の回復も影響しています。航空業界は、今後2年から3年以内にコロナ危機前の状態に戻るだろうと予測されています。回復の速度はさまざまな国や地域によって異なります。しかしながら、2040年までの長期にわたり、新しい飛行機の数は25%減少するかもしれません。

航空機メーカーは、エアバスグループのエアバス E-ファンプロトタイプのような未来の電動航空機へのさまざまな設計アプローチを採っています。
もうひとつの大きな変化はエニジニアリングに関するもので、飛行機はいままでのように機内に2本の通路があるものから、通路が1本のものとなり、機体の幅はそれほど大きくはなくなるでしょう。飛行機はまた、より長い飛行距離も求められるでしょう。エンジンとフレームは密接に関係しています:どちらももう一方なしでは機能しないのですが、エンジンに関しては、持続可能性が重要課題である言えるでしょう。これは、重量、騒音および排気の低減、そしてより少ない燃料消費とより高い効率を意味します。通路が1本の飛行機は、エンジンのサイズや数を増やすことなく、広範な用途を満たさなければなりません。
これらの設計上の課題にアプローチするには、さまざまな方法が考えられます。ひとつは、合成燃料、バイオ燃料または水素のような既存のエンジンタンクを利用できる代替燃料を見つけることです。それから、大手メーカーが紹介する新しいタイプのエンジンによる新しいエンジン構造という方法も考えられ、こちらはより長期的なアプローチになります。さらにまた、電動、バッテリ駆動または電磁式エンジン、あるいは電動モーターが現在のエンジンをアシストするハイブリッドエンジン、といった従来のエンジンの代替となるタイプのエンジンも考えられます。
課題の多い被削材
自動車産業では、既に新らしい電動システムおよびハイブリッドシステムによる大きな進歩を確認することができます。その一方で、航空宇宙産業の相手先商標製品製造 (OEM) メーカーは、これらのシステムを手がけてはいるものの、その多くは、2035年以前に広範囲に使用されるようになるとは予想されていません。それでも搭乗者数が2~10人の小型飛行機に関しては、これらの新しい技術はもう少し早く採用されるかも知れません。
もちろん騒音、重量および排気の低減は、これらの電気システムの性能に影響を及ぼしますが、課題もあります。電気自動車 (EV) ならトラブルが発生したら道路脇に止まることができますが、高度10,000フィートの上空ではその選択肢はありません。その上、設計者とエンジニアはより長い距離を飛行するためにより軽い飛行機を望んでいるので、バッテリが重いのは問題です。つまり、取り組むべき技術的な障害があるのです。
飛行機の胴体のようなコンポーネントについては、OEMメーカーは2つの異なる方向に進んでいます。そのうちの一つでは、航空機のコンポーネントは高強度、耐疲労性強度およびその他の属性を備えた新しいタイプのアルミ合金を求めているにもかかわらず、アルミ合金の使用は増えることになります。このアプローチは、簡単に言えば大きなチューブ状の機体に翼とエンジンが付いている、従来の飛行機の設計に固執しています。
もうひとつのアプローチは、胴体に翼本体を融合したデルタ形の飛行機およびストラット補強型翼の飛行機、またはエンジンを胴体に組み込んだ飛行機のように、他の形状の飛行機を研究することです。このような場合にエンジニアは、よく材料を複合材、または複合材とセラミックの組合せおよび混合材料に変えることがあります。これらの設計がポピュラーなものになるかどうかは、まだわかりません。今のところ私たちは、より多くのアルミ合金が使用され、耐熱合金 (HRSA) も使用されるだろうと考えて間違いないでしょう。HRSAは、きわめて性能要件の厳しい航空機部品に使用される典型的な材料です。HRSAは高温においても強度が高い材料で、非常な高温にさらされても硬度を維持することができます。
しかしながら、最高の航空機部品メーカーでさえこれらの高じん性被削材の製造を経験したことがないかもしれません。このような加工こそ、サンドビック・コロマントの専門知識が有用であると実証されてきたケースです。
コンポーネントソリューション
サンドビック・コロマントは、増大する機械工のマルチタスクに対するプレッシャーに対応するために、コンポーネントソリューションを提供します。今日のエンジニアは、1台の機械に注目するのではなく一度に4台または5台の機械を操作することができるのですが、それにより特定の加工に注目する時間または機会は少なくなっています。しかし、私たちの提供するコンポーネントソリューションとはどのようなものなのでしょうか?コンポーネントソリューションは、より全体的な展望を目指しています。それは工具に関することのみではなく、サンドビック・コロマントが加工プロセス一式で支援することを意味しています。
その一つが、サンドビック・コロマントの航空宇宙産業のあるお客様が、耐熱合金 (HRSA) 被削材の加工の際に直面した課題です。お客様の既存のアプローチでは、切りくず処理が不十分で長いサイクルタイムの工作機械を複数台必要としていました。一貫性のない工具寿命および信頼のおけない加工、そしてオペレーターが加工作業をフルタイムで監視しなければならないことも稀ではない、といった課題がありました。
これらのような高価値プロジェクトへの対応のため、サンドビック・コロマントのコンポーネントソリューションは、複数の段階で構成されています。機械の必要事項のチェック、部品当たりコストを調べる時間考察、および加工法-時間の測定 (MTM) とエンドユーザープロセスの両方に関係する試運転時の製造方法の分析の各段階が含まれます。コンピュータ支援製造 (CAM) プログラミング、およびローカルまたは国境を越えたプロジェクトのプロジェクト管理も含まれます。
これらの分析により、お客様の切りくず処理の問題を解決するには、私たちがお客様のプログラミング戦略を変える必要があることが明らかになりました。工具との組合せにおいて、サンドビック・コロマントのスペシャリストは、刻一刻と切りくず処理をコントロールできる動的な駆動曲線の新しい加工方法を開発しました。私たちはこの新しいアプローチをスクープ旋削 と呼び、現在それに関する特許を取得済みです。
スクープ旋削は結果として、お客様のために非常に良好な節約を実現しました。大量の切りくず処理に加えて、お客様は80%のサイクルタイム削減および2倍の工具寿命も達成しました。より安定した加工プロセスおよびグリーンライト生産により、マルチタスク加工の必要をなくして、4台の機械の使用を1台に減らすことができました。
これは、より全体的なアプローチがいかに製造業者の最終的な損益にメリットをもたらすことができるかを示しています。サンドビック・コロマントのデジタル製品ポートフォリオの一部であるCoroPlus® ツールガイド のようなソフトウェアも、重要な役割を果たしています。お客様は製造を開始する前でも、工具および切削パラメータの選定に関する重要な決定を下すことができます。
より持続可能な旋削加工
航空宇宙産業の製造業者は、持続可能性への取り組みについてさまざまなアプローチを採っています。サンドビック・コロマントは、特定の1社のお客様向けにカスタマイズされた、しかも全産業にメリットをもたらすことにもなるソリューションの開発が可能であることを知りました。
お客様の耐熱合金 (HRSA) の良好な加工への支援ということに対するサンドビック・コロマントの回答は、S205旋削材種を開発することでした。このチップは、優れた耐摩耗性と長い工具寿命のために第2世代のInveio® (インヴェイオ) コーティングを を採用し、またS205は、ポストトリートメントテクノロジーにより物理的特性が変更され、強度が増しています。このチップ素材には、チップの周りに強力な保護バリアを形成する、単一方向に揃って密集した結晶による特長があるInveio® (インヴェイオ) コーティング層があります。 これが熱保護を最大化し、良好な逃げ面摩耗耐性によりすくい面摩耗を改善します。

この材種は、航空機のエンジンタービンディスク、リングおよびシャフト等の部品の加工に最適です。当社のお客様より、S205を使用した場合に競合品の耐熱合金 (HRSA) 旋削材種と比べて30~50%高い切削速度を達成された、との報告を受けています。これらの結果は工具寿命を損なうことなく達成されたものです。それ以来S205は、航空宇宙産業およびその他の産業の複数の製造業者にメリットをもたらしてきました。これらの結果は、全体的アプローチにより、特に、全方向旋削加工を可能にして生産性を最大にするサンドビック・コロマントのPrimeTurning™ により達成されました。
PrimeTurningTM 加工法では、工具がチャック付近で加工物に切込み、加工物の終端に向かって移動しながら被削材を切削します。これにより切りくず排出量を改善し、より迅速で高品質な製造と加工方向の切り替えを実現します。いくつかの事例では、当社のお客様はたった1回の工具交換で部品の製造を完了しましたが、競合他社の工具では5回も工具を交換する必要がありました。
航空宇宙産業は、これまでで最も大きな危機のうちのひとつに直面していますが、雲の後ろには光があります。 サンドビック・コロマントは、ツーリングへの全体的なアプローチにより、より良い工具および最適化された切削パラメータと持続可能性を結合させることにより、すべての主要な航空宇宙産業のOEMメーカーのパンデミック後の回復の支援を続けています。